・中華あんかけ （もやし、きくらげ、豚、卵）
・キャベツと油揚げの味噌汁
・セロリのきんぴら
・雑穀ご飯

　知人の方々への私信です。現在、ちょっとした事情があってスカイプが使えません。ご連絡はメールでお願いいたします。
　

　自分がいかほどまで空腹に弱いか、という話はいくらでもできるのだけれど。誰も聞きたくないだろう。でも書きたいから、あと二つだけ。

【その１】
　私は陸マイラーだ。そのうえ航空会社のキャンペーンなんかにも参加したりするので、無料で飛行機の席をビジネスクラスへアップグレードできるような機会に恵まれたりすることが、たまーにある。
　それでも私は、絶対ビジネスクラスに乗らない。初めて乗ったとき、悪夢のような体験をしたからだ。

　あれは数年前のこと。初ビジネスクラスで、お待ちかねの夕食の時間。
　私の元に、温かい野菜のソテーやらビーフシチューやらが運ばれてきた。てりてりで、ものすごく旨そうだ、エコノミーのメシとは大違いだ、ちょうどいい具合に腹も減ってる。すっかり嬉しくなってきた。
　そんな私の耳に、「飛行機が乱気流に入った」というアナウンスが流れ込んできた。続いて「機体が落ち着いてから、残りのサービスをしますよ」というような案内が流れ、キャビンアテンダントの姉ちゃんたちはいなくなってしまった。

　私は、どんな状況下でも、炭水化物のない状態でオカズだけ喰うことができない人間だ。焼肉屋でも、最初のオーダーでライスを注文する。だから、目の前の温かいシチューやソテーも、パンが出てくるまで喰えない。残念だ。
　まあ、すぐに機体も落ち着くだろうから大人しく待とう。そう思った。しかし揺れは十分たっても二十分たってもおさまらなかった。どんどんオカズが冷めていく。とってもいい匂いだったシチューが冷めていく。喰っちまうか？　いや、もしもパンがない状態でムリヤリ喰うのであれば、冷める前に喰いたかった。ここまできたら引き下がれない。頼む、パンをくれ。パンを喰わせてくれ。
　そして三十分が過ぎたころ。私は、ぼろぼろ涙を流し、しゃくりあげながら泣いていた。
　もう三十歳を超えていたけれど、周りの人が驚いて私を見ているのにも気づいていたけれど、恥ずかしかったけど、それでも涙を止めることができなかった。だって、こんなに美味しそうなシチューがあるのに、お腹も空いてるのに、パンがないから喰えないのだ。こうして泣いてる間にも冷めていく、ほら、目の前のシチューからは、もう湯気が出てない。
　これは誰も悪くない。機内の安全を守るための措置なのだ。それは分かってる。だけど、メシが冷めてしまうのがどうしようもなく悲しくて、悲しくて悲しくて、お腹が空いて、全身が震えて、どうしていいのか分からなくなった。私は頭から毛布を潜り、体を震わせて、めそめそと泣き続けていた。お腹が空いたよ、お腹が空いたよと呟きながら、パンが出てくるまでずっと泣き続けていた。

　それ以来、私はビジネスクラスに乗らなくなった。たとえ無料アップグレードの権利を得てもエコノミーを指定している。だって、また乱気流に巻き込まれるかもしれないからだ。オカズとパンが一緒に出てこないのは、もう絶対にイヤだ。

　旨そうなホカホカの食べ物が目の前で冷めていくのを眺めなければならない苦痛に比べたら、最初っから箱入りのマズい食事が一度にドンと運ばれてきたほうが、私にとっては何万倍もつらくないのだ。座り心地は、たしかに雲泥の差だけど。あのときの悲しさに比べたら、居心地の悪い椅子に十時間座るほうがずっとマシだ。